2010年5月5日水曜日

第4章―現象の乱舞―2―飛び交う小物:part1―数分置きの狂気

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 カウンセラーの島田先生は、「不安と恐怖の連鎖というものは、どこかで区切りをつけないといけません。具体的には、お母さんが恐怖を感じても、それを必要以上に怖がらず、息子さんにもその不安を伝えないようにするということですよね」と言われました。

 そうは言われても、異様な現象に遭遇すると、「何が必要以上で、何が必要以下なのか」の基準が全くと言っていいほど把握できません。

 島田先生は、私の不安を、決して否定せず、怪奇な事態を「ありのままの現実」として受け入れる姿勢を終始、崩さずにいました。

 そのことは、とてもありがたいことでした。

 しかし、「息子さんに必要以上の不安を与えず、異常な状況においても、毅然としていなくてはいけないと思います、大変でしょうけれど」と言われても、私は戸惑うばかりでした。

 実際、5月末から6月2日頃にかけて、徐々に現象はエスカレートしていきました。その頃だったと思いますが、夜中の2時から3時にかけて、私と息子は、よくベランダから幼女の、母親を呼ぶ声を聞くようになりました。

 私達の住むマンションは、周囲を標高320mの山々に囲まれた場所だったので、昼間でも、公園での子供たちの歓声が、5階の我が家まで響き渡ります。

 そこで、夜半の幼女の「ママ...ママァ......」と言う、消え入るようにか細く、泣くような苦しそうな声も、最初は、公園か、その脇の山道へと続く駐車場付近から聞こえるのだろう、と話し合っていました。

 「でも、こんな夜中に...?今、夜中の3時なのに、小さい女の子がそこの公園にいるなんて―」

 私の疑問に、ユタカも変だと言いましたが、あっと気がついたように声を潜めました。

 「ねえ、ちょっと......よく聞いてよ。ほら、また聞こえる。あの声、うちのベランダから、ほらすぐ近くで聞こえるじゃない!ねっ!うわ~......何だよ、この声......?」

 そんなことから余計に睡眠不足となることや、私も息子も、背後に誰もいないのに、手で肩を叩かれることが起きたり、無人の部屋で、はっきりと人の気配を感じたりすることが顕著になっていったのです。

 島田先生は、こうした話に不思議そうでしたが、「やっぱり、変な現象に出くわした場合、不安と恐怖の連鎖がどうしてもご家族の間で出来上がってしまいますので、そういう時、どう対処したら良いのか、臨床医である心療内科の先生に、医学の立場からアドバイスを受けた方がいいですよ」と勧めました。

 しかし、相談の結果は、前回記した通り、失望に終わってしまいました。

 誰でも、「現実に有り得ないことを経験する=恐怖を味わう」という体験をしない限り、いくら口で説明しても、信じられないのは、百も承知である上で、私は、この奇妙な体験を、病院で打ち明けたのです。

 それでも、「そんな話はもう聞きたくありません。そんなことが現実に起こるわけがないでしょう」と言わんばかりに、殆ど無視に近い形で、話を遮られ、「私はそんなことは信じません」と言われてしまうと、頼みとしていた命綱を、突然ぶっつりと断ち切られたようなショックを受けたのでした。

 私の「こんな異様なことが我が家で起きている。だから、話をきちんと聞いて下さい。それが精神医学の見地から説明できるものなら、現象の原因はもちろん不明でいい、せめて、異常事態にうろたえないための心構えを教えてほしい」という願望は、人によっては「大体、異様なことなど起こらないのが現実なのに、何をあなたは言っているんですか」と受け取られるケースが多いことは、私は充分覚悟していたのです。

 そして、その医師が私の訴えを「病的心理に起因する何らかの妄想である」と医学上、診断を下したのなら話は別です。

 しかし、そうした診断をする様子もなく、こちらのすがるような心理を察することもなく、あっさりと「私は信じません」と断言されてしまうと、ただ虚しさと悔しさだけが残るのでした。

 せめて、「私は信じられませんが」と言ってくれたなら―そう思いながら、がっかりして、帰路についた時の気持ちが、今でも昨日のように蘇ってきます。

 しかし、事態は、こんな現実のつまらないやりとりなど嘲笑うかのように、刻々とその異様さと深刻さをエスカレートさせていました。

 心療内科に行ったのは、6月の2日頃だったと思いますが、5月31日の夜半から、突然、現象のパターンが一変してしまったのです。

 5月31日土曜日、夜中の2時過ぎ、息子が久しぶりに「胸やけがする」と言って、上半身を起こし、そのまま気晴らしにとDSでゲームを始めました。息子がゲームを寝室でする場合は、いつも自分の布団横の壁にもたれていました。

 そんな息子を右側に眺めつつ、私はやはり寝室のふすまに沿って敷いた布団に横になっていました。もう6月に入るという時だったので、蒸し暑く、私は枕元のふすまを15cm ほど開けていました。

 すると、急に、台所で何かが「コーン!」と落ちる音が響きました。枕元の携帯の時刻は、AM2:21 を示していました。

 何が落ちたのかと、私と息子は台所に行って見ると、食卓のほぼ中央にきちんと置いていた「デンタル・ピルクリーム」(口内炎の軟膏)が、息子のいつも座る隅の椅子の背を飛び越えて、そのすぐ後ろの、炊飯器近くの床に落ちていたのです。

 ぞっとしましたが、私は「現象が起きたら証拠写真を撮る」という習慣がもう日常になっていたので、デジカメで写真を撮り、その薬を元の位置に戻しました。

 もう寝ようと、私達は布団に戻りました。すると、今度は私が15cm ほど開け放していたふすまのすぐそば、つまりピアノのペダル近くの床に、何か固い物が「ゴン!」と落ちる音がしました。

 体を横にしていた私は、すぐ耳元でその音を聞いたので、驚いて飛び起きました。それほど大きな音だったのです。

 「ついさっきも薬が勝手に飛んで落ちたのに―今、何時だろう」

 そう思い、携帯を見ると、AM2:29 でした。ほんの8分後でした。

 ユタカも「何だろ」と、私と一緒に台所の灯りをつけて、何が落ちたのか、音がした辺りを見回しました。すると、落ちていたのは息子の鼻炎薬でした。

 赤いキャップで、「アルデシン」というアレルギー専用の薬です。幅は3cm で、縦5cmほどあるので、ピアノのペダルに投げられてぶつかると、静かなリビングに激しく響くのも無理もない大きさです。

 しかし、これは、他の薬と同様、いつも食卓の上にきちんと置いてあるのに、そこから6m も離れたピアノのペダルにまで吹っ飛び、ピアノの右隅にまで落ちていたことが、私には大きな恐怖でした。

 それでも、不思議なことに、こうして物が「まるで誰かが勝手に投げたように」ふすまにぶつかったりすることは、私の中で、少しずつ「仕方がない、止めようがない」といった、あきらめの境地として処理するものへと変化していったのです。

 別の表現で言えば、すなわち「恐怖に少し麻痺してしまった」といった感じだったのかもしれません。その証拠に、私は息子の前でも、笑って、その薬を拾い上げたからです。

 「ああびっくりした。なんで飛んでくるのかなあ」こう言って、本当に笑っていたのです。

 ユタカも、笑って、「お母さんが、ピアノのそばのふすまを開けているからじゃないの。そこ開けていると、余計に物がこっちに飛んでくるみたいじゃん」などと言いました。

 カウンセラーの先生が、「お母さんが毅然としていなければ」と言われた時は、「そんなこと、絶対に無理」と感じたというのに、現実に異常な現象が続けざまに起こると、「恐怖は一瞬であって、後は落ち着いていられる」ことが可能になるとは思いませんでした。

 その後、アルデシンをテーブルに元通り置いて、私は息子に「もう、寝なきゃね」と声をかけました。彼も「うん」と頷きましたが、すぐに「あっ、リビングのシャンデリア、お母さん、点けっ放し」と気がつきました。

 そこで、私は、寝室に戻りかけていたのを引き返し、シャンデリアのスイッチをオフにしようと、そちらに歩きかけましたが、その途端、まるで狙いを定めたように、私の右足の付け根の側面に、いきなり何かが飛んできて「バシッ」とぶつかりました。

 何かが体に激しい勢いでぶつかると、やはりギョッとします。思わず、「キャーッ」と叫び声を上げてしまいました。

 よく見ると、すぐ前の床には、ユタカの、ピンク色のキャップの小さな鼻炎薬が転がっていたのです。

 こちらの鼻炎薬は、キャップは幅、縦共に1cm ほど、薬本体のボトルは1.5cm ほどの小型で、先ほどピアノの右隅に吹っ飛んだ「アルデシン」と常にテーブルの上に並べて置いていたものでした。

 そんな小さな小物でも、驚くほどのスピードで、3m 離れた所から、私が目を離した隙に体にぶつけられると、痛いと感ずるのです。

 時刻は、AM2:32 でした。さっき「アルデシン」が投げられた時刻から3分ほどしか経っていません。

 私は、「物が投げられる」時間が数分刻みになっていることや、何より、誰もいないリビングで、まるで「誰かが悪戯でもするように、小物が投げられて、ふすまや家の者にぶつけられる」という、まさに現実に、物理的に不可能な状況を突き付けられていることに、内心「何か敵意を持つモノが我が家に巣食っているのだ」と怯えました。

 この日から、私はこうした現象は「ポルターガイスト」なのではないか、という明確な認識を得るようになったのです。(To be continued......)

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