2010年5月13日木曜日

第5章「異界の門」―3―壁の中の気配:part1―浮遊する箱

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 6月1日の午後3時に、やっと父が5日~6日の予定で泊まりに来てくれました。父は、5月中旬から起きている怪現象について、いろいろと知人に尋ねてみたそうです。その中で、参考になり助力ともなったのは、息子さんが医師であるという河野さんという方からの情報でした。

 「河野さんは、うちの話を聞くと、『般若心経』がいいんじゃないかと言うんだよ。それで、その解説書と読経のテープを貸してくれた。それに、佐藤愛子さんという作家のことを知っていてね、その人の書いた『私の遺言』という本に、うちと似た経験が書かれてあるらしいと教えてくれた」

 「『般若心経』?お経が効果があるの?」と私が訊くと、父はこう言いました。

 「俺も、この歳になるまで、恥ずかしながら今までよく知らなかった、般若心経のことはな。でも、このお経の最後に、特に悪霊を追い払う言葉があるらしい。試してみたらいいんじゃないか」

 佐藤愛子さんのことも、そう言えば Wikipedia に載っていたと思い、『私の遺言』を Amazon で検索しました。佐藤さんは、50代になった頃、北海道に別荘を建てたところ、早速超常現象が起こり、それから30年近く、旅先でも、東京の自宅でもその現象に悩まされた、と解説がありました。私は、佐藤さんがどのようにして、その現象を解決したのか知りたいと思い、『私の遺言』を注文しました。

 父が私の家に泊まって最初の晩、夕食後は皆で夜10時半位まで、テレビをつけながらトランプをしました。息子も楽しそうで、こうしたことに興じていると、現在悩んでいる怪奇現象など、嘘のように思えました。

 「『物が飛ぶ現象』は、特に夜中になると起こる」と母から電話で聞いた父は、少なくとも夜中の3時位までは、パソコンをしながら、「寝ずの番」で起きている、と言ってくれました。

 「大丈夫?体を横にしないとまいってしまうんじゃない?」

 私と息子がそう心配しましたが、父は、「どうせ寝ていても、変なことは起きるんだろ。それなら起きていても同じじゃないか。お前たちを安眠させようと、おじいちゃんは来たんだから」とパソコンの前に覚悟を決めたように座りました。父も、不安や心配はあったのですが、「化け物が来るなら来い」と胆を据え、「ついでに趣味でいろいろと調べ物をしたい」との目的もあったのだそうです。

 その日の晩、午後11時半頃になって、いきなり父の目の前で、「カーン!」と鋭い音が響きました。父は一瞬のことで、何が起きたのか分からなかったそうですが、よく見ると、リビングの扉の前に、父の歯ブラシが転がっていました。

 「また何か飛んだみたいね」寝室にいた私は、父の方へ行きました。

 「この俺の歯ブラシは、洗面所に今日の昼間、置いてあったんだ。こりゃ、リビングの隅の方から飛んで来たみたいだったなあ。ええ?でも、洗面所はこの扉の向こうじゃないか。なんでそこにあった物が、リビングの隅から飛ぶんだ?」

 父は、有り得ないという調子で驚いていましたが、「今までお前たちの話を電話で聞くだけで、俺だけ経験していなかったから、実感が湧かなかった。でもこんなことが起きるんじゃ、怖くなるのは当たり前だなあ。俺も生まれて初めて経験したよ」と、未知の世界を新発見したように、やや興奮した口調でした。

 そして、6月2日の夜半も、父のいるリビングに、ボールペンや歯ブラシ、色鉛筆などの小物が投げ飛ばされることが数分置きに起こりました。

 父の相対しているパソコンの向こうには、リビングの扉がありますが、その扉は「暑いから」と開け放して固定していました。そこからは、短い廊下、左手に洗面所とトイレのドア、そして正面に玄関の土間が見えます。

 洗面所からも、土間に向かって、父や私のコップが放り出されて叩きつけられるのを、父は目撃しました。私もその音を聞き、土間に落ちた物に驚き、それを元の場所に戻しておきました。

 2日の午後、両親は管理事務所に行きました。PM12:30~1:00 頃でした。そこで、父は管理人さんに、「有り得ないことですが、物がいつも置いてある場所から、いつの間にか移動して、とんでもない方角からポンポン飛んで来るんです。誰かが力いっぱい投げつけたように」と説明し、独りでに飛んで来て、床に落ちた物、ボールペンやタッチペン、歯ブラシ、色鉛筆、コップなどを見せました。

 管理人さんは、この話に否定の様子はなかったようです。

 「信じられないことですがね、ご主人まで経験してはることなら、確かでしょう。それなら、その『物が飛んで来るという経験をした』ということを、400字程度にまとめて下さい。お宅のお名前や、部屋番号は伏せて下さい。その文章を、マンションの瓦版に載せて、印刷しますから。こんなお話をしに来たのは、お宅が初めてですが、他の家でも、もしかしたら同様の現象が起きているかも知れませんよ。仮にそうだとしても、『人に言っても信じてもらえないし、頭がどうかしてると思われる』ということで、申し出ないのかもしれませんからね」

 中学のカウンセラーであるS 先生に次いで、私達の経験を肯定してくれた人は、この管理人さんで二人目でした。私は早速、瓦版に載せるべく、原稿を書きました。主旨は次のようなものでした。

 「5月16日から、我が家で、玄関の灯りが急についたり、パソコンのモデムのコンセントが誰も触れていないのに引き抜かれたりするようになりました。5月末からは、家の中であらぬ場所からペンや消しゴム、薬やコップなどが凄い勢いで飛び、壁やふすまにぶつかります。同じような経験をされている方はお知らせ下さい」

 この原稿は、一旦、管理人さんに預けたものの、数日後、玄関ポストに、管理事務所広報部担当の方からお手紙が差し込まれていました。それは、この原稿の掲載拒否の手紙でした。

 「原稿を拝読致しました。内容から判断しまして、この文章を瓦版に載せると、マンションの住人の方々に恐怖心を煽ることとなりかねないと思います。申し訳ありませんが、原稿の掲載は見送らせて頂くことになりました。それよりも、そんなに物がご自宅の中で飛び交っている状況ならば、もはや『現象の科学的立証云々』を考えている場合ではないと思われます。一刻も早く、駅前の八幡神社にお参りなさって下さい。あの神社は、この町の守り神であると古くから言われております 広報部担当」

 結局、私の文章はマンションの瓦版には載らないこととなりましたが、よく考えてみると、当然のことだったのです。私の「体験談」は、現実的に見て「奇怪で珍奇で怖ろしい」内容でしかありません。このことをマンション中の人が読むと、ほとんどの世帯の人々は薄気味悪いと感じ、転居する人が後を絶たないでしょう。

 電気工事などに来る業者の人でも、驚くほどの世帯数を抱える大きなマンションですが、私の原稿が仮に瓦版に掲載されたなら、「幽霊マンション」という奇妙な噂が広まってしまい、売却して転居したいと考えても、その資産価値は下がることは明らかです。2000~3000人余りの人々が、マイホームとして購入したマンションを、売却するほどの値もつかないまま、泣く泣く手放すことになってしまう訳です。

 広報部担当の方は、それを憂慮したのでしょう。

 しかし、この広報部の人も、私の体験談を「虚実である」とは考えていなかったようなのです。その証拠に、「一刻も早く、八幡神社に参拝して下さい」と書かれてあったからです。多分、この担当の方には、こうした現象に関する知識が少なからずあったに違いありません。

 「もはや『現象の科学的立証云々』を考えている場合ではない」とこの人が書いたのには、きっと父が、管理人さんに「何とかしてこの現象の原因を探りたい。科学的に立証されるのならば、そうするつもりです」と話したことが元になっているのでしょう。

 私は、この手紙の「そんなに物がご自宅の中で飛び交っている状況ならば、もはや『現象の科学的立証云々』を考えている場合ではないと思われます。一刻も早く、駅前の八幡神社にお参りなさって下さい」との表現に、何かしら、怖ろしい危険が差し迫っているような、そんな切羽詰まった気持ちに襲われました。

 「もはや、悠長に構えているべきではない。こんな現象に、『科学的根拠』も何もあったものではない。土地の守り神に一刻も早く参拝せよ」―

 まるで、「呪い、悪霊、鬼、妖怪」が我が家を既に取り囲んでいるような、何か悪しき怨霊に祟られているかのような怖れを抱いたのです。

 しかし、結局は、駅前の神社にお参りはしませんでした。理由は、我が家に起きている現象の不気味さ、徐々に頻度や激しさを増す様子から察して、本能的に「神社にお参りしても、現象は収まらないのではないか」と感じたからでした。父も、積極的に参拝のことは言いませんでした。

 6月2日の夜中には、息子がまた「ベランダに誰かいる。小さい女の子みたいだけど」と言っていました。この頃から、公園から聞こえる幼女の声が、よく聴くと、我が家のベランダから聞こえるようになったのです。

 「ママ......ママァ......」

 時刻は AM3:30~4:00 でした。この幼女の、訴えるような、泣き声のようなか細い声に呼応するように、今度は大人の女性の「ウッ......ウゥッ......」と苦しげに呻く声も、ベランダから聞こえます。

 3日の同時刻頃には、息子は「ベランダに5,6歳の女の子がいるみたい。足音がする」と言いました。

 耳を澄ますと、誰もいるはずのないベランダで、小さな子供の往復するような足音が、カサカサと聞こえるのです。そのうち、その足音はベランダ隅の衣類乾燥機の上に登り、ベランダの柵の上から下へと飛び降りる気配がありました。

 その気配の後、物が夜中に転がったり、床に投げつけられる現象は、AM4:00 以降は不思議と収まったので、その日の晩は、皆、やっと寝入ることができました。

 4日の晩は、夕食後、皆でトランプをPM10:00~11:00 までやって遊びました。その後、「もう
寝るようにしよう」となり、息子はテレビに背を向けて、私と立ち話をしていました。その時、テレビボード左側の書棚から、何かが「ヒュッ!」と飛んで来て、ユタカが急に「痛っ!」と叫びました。

 床に落ちたのは、以前もありましたが、書棚にしまっていた、単2サイズの古い電池でした。この電池が、閉めたガラス扉から、息子の背に、凄い勢いでぶつけられたのです。

 日付が変わり、5日の0:30~50 の間に、ユタカが洗面所で口を洗い、リビングの扉を開けた直後、パソコンに向かっていた父の背後から、急にユタカの歯ブラシが飛び、彼の足元に「バシッ!」と当たって落ちました。

 「お前、今、口を洗ったばかりだろ?その歯ブラシは?」父がユタカに尋ねました。

 「えっ?いつも通り、洗面所の歯ブラシ立てに置いたよ」

 「そのお前の歯ブラシが、なんで俺の背後からお前の方へ飛ぶんだ?」

 父からそう言われても、ユタカもなぜそんなことが起きるのか分からないので、何とも返答できません。

 このやりとりの直後、今度は玄関土間に「カーン!」と細く鋭い音がしました。見ると、今度は私の歯ブラシが、洗面所から土間へと投げ飛ばされたのでした。

 このように、相次いで物が飛ぶので、その晩、父は更に警戒して、「今夜も寝ずにいるから。頑張るから、安心して、お前たちは早く寝なさい」と言い、午前4時頃まで起きていてくれました。

 5日の昼間は、全く平穏そのものでしたが、皆がリビングに集まっていた夕食前の PM6:05、いきなり現象がスタートし、それはPM9:45 まで、3時間半に渡り、ほぼ数分から10分置きに様々な怪異が起きました。

 まずPM6:05~40、息子の学習机の一番上の引き出しから、ドラクエの鉛筆、ネームペン、磁石セットとピンセットが次々とリビングの床へと飛んで来ました。引き出しからリビング床中央まで、4m はあるのです。また、学習机の左隅にあった、ピンクのキャップの鼻炎薬も、同様にすっ飛んで来ました。

 PM7:30、私と息子が布団を敷き詰めた子供部屋へ行き、落ちた物を引き出しにしまいこんでいる時でした。ユタカが「あっ!」と驚いた声を上げたので、私も思わず振り向きました。

 私達の目の前では、ティッシュボックスが宙に浮いていました。

 その箱は、息子の枕元に置いてあったものでした。間もなく、ボックスは、枕のそばから20㎝ ほど離れた布団にパサッと落ちました。

 「このティッシュボックス、急に僕の目の前で、ふーっと浮いたんだ」

 あまりの不思議さに、私は言うべき言葉が見つかりませんでした。仕方なく、黙ってそのボックスを、元通り、息子の枕元に戻したのです。

 このボックスは、PM9:20、今度は私と息子の目の前で、再びふーっと浮上し、1m 先の私の布団の上へと落ちました。

 パジャマが浮くのを数日前に見ましたが、今度はティッシュボックスが宙に浮いたのです。

 こんな異様な光景を続けざまに目撃すると、恐怖はもう痺れたかのように萎んでしまい、「これが日常生活なんだ」と感じていくようになってしまいました。後は黙々と後始末をするだけです。私は、「こんなことしても、無理だろうな」と思いつつも、宙に浮いたボックスをうんとへしゃげて、息子の布団の下に押し込んでおきました。

 2回目の「ティッシュボックス事件」の前、同日PM8:50 頃、夕食を終えた頃でした。私の右肩が、強く注意を促すように、強く「トントントン!」と誰かが背後から叩き、最後はぐいっと手で押されました。

 私は流しにいた母に、「ねえ、何?」と訊きました。母は、えっという顔で、私を振り向きました。

 「ねえ、今、私の肩を叩いた?」

 「まさか。お母さんは、ずっと流しにいたよ。本当に、肩を叩かれたの?」

 私の背後には、確かに、誰もいませんでした。息子は、私とはテーブルを挟んだ向かいの椅子を、テレビへと向きを変えて、その上に体育館座りをし、番組を観ていました。

 この直後の、PM8:55~9:11 までの間、また次々と物が飛んで来ました。

 学習机のやはり一番上の引き出しにあった、プロアクの箱が、4m 離れた電子ピアノの前に吹っ飛び、寝室の私の枕元にあった洗浄綿の箱が、6m は離れた食器戸棚の前にまで飛ばされ、亀の水槽近くに置いてあったセロテープ台から、セロテープが、2回も放り出され、3m ほど離れたリビング中央へと転がりました。

 2回目にセロテープが転がった時のことでした。息子が、そのテープを取ろうと、床に膝をついて手を伸ばすと、何と、セロテープは逃げるかのように、独りでにテレビの方へと、スーッと動いたのです。

 これは、父も目撃し、大変驚いてこう言いました。

 「今の、見たな!(私に向かって)お前も見ただろ?へえーっ!セロテープが自分で動くだなんてなあ!」

 PM9:45、この時も今までにない光景を目撃しました。

 私達は、まだリビングにいて、テレビをつけながら、先ほどまで起きたことを話していました。すると、寝室から、35分ほど前に飛んで来た、私の枕元に戻しておいた洗浄綿の箱が、リビング床へと飛んで来て転がったのです。

 察するに、枕元にあるのが、ティッシュボックスのように浮上して、ふすまの方へと寝室内で移動し、そしてふすまからリビング床へと吹っ飛ぶのだ、と考えました。その洗浄綿の箱は、再び枕元に戻しました。

 「また飛んでくるかしら」

 そう思い、何気なく寝室の方を見つめていました。

 すると、目の前のふすまのところに、戻したばかりの箱が浮いていたのです。あっと言う間もなく、その箱は、再びリビングへとぽーんと放り出され、床に転がりました。

 これで、洗浄綿の箱は、2回もふすまを曲がって飛んだわけです。ティッシュボックス同様、「どうせまた飛ぶんだろうな」と考えながらも、薄気味悪さで、さすがに額や背中が汗ばんでいましたが、その箱は、食器戸棚隣の細い整理戸棚の中へと入れてしまいました。

 ふと、数日前の、管理事務所広報部担当の方の手紙による警告が、私の脳裏をよぎりました。

 「土地の守り神に一刻も早く参拝せよ」―

 これだけ異様な経験に遭遇するというのは、「やはり神社でお祓いをしていないせいなのか」との不安が濃厚になってきたのです。それでも、矛盾したことに、私達家族には、ここまで怪異な現象を現実に目前にしながらも、「神社に参拝しても無駄じゃないのか」との印象が強まるばかりでした。(To be continued......)

 

 

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