2010年5月5日水曜日

第5章:異界の門―1―思春期の少年少女: part1―現象の震源地とは

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 目の前でパジャマが勝手に持ち上げられ、それが宙を舞うなどということが本当に起こるとは、全く予期していなかったことでした。

 従来の私は、マジックショーなどの番組が好きで、マジシャンの手からトランプが次々と現れたり、布をかぶせると手から炎が立ち昇り、またそれに帽子をかぶせると、鳩が無数にはためく―といった、派手なマジックが好きでした。

 姉は、トランプやコイン等を用いたマジックが好きで、そちらの方が、人の心理の隙に入りこんで「あっ」と言わせるマジックでも、ずっと高度なテクニックを要するから好きだ、と言ってました。私が好むタイプは、仕掛けが見え透いていて、面白くない、と言うのです。

 「よくそんな子供じみたものに夢中になれるよねぇ」

 私が学生の頃、姉は呆れたようにこう言ったものでした。

 しかし、私はマジックを鑑賞する際の精神年齢など気にも止めませんでした。

 「もう、黙ってて。仕掛けがチャチでもいいの!あっと驚く瞬間が楽しいんだから」

 「あたし、仕掛け分かるんだけどな」

 「いいってば!言わないで!せっかくのマジックがつまらなくなっちゃうよ」

 しかし、このパジャマの異変の仕掛けは一体何だったのか?

 いくら派手なマジックが好みと言っても、この「パジャマ現象」に関しては、トリックは絶対知りたくない。これが私の正直な感想でした。それに、この「現象」は、決してマジックではないことは明らかでした。

 この現象の「トリック」を知ることは、現象の背後に潜む不気味な謎を現実に目の前に突きつけられることになる、と分かっていたからです。そして、その謎を解く鍵は私達には決して与えられない、としか思えなかったからです。

 また、物が飛ぶ瞬間を目撃してしまった、ということは、もはや、この世にあり得ぬ「異界の門」の扉が、私達の心情や意向など無視しながら音も無く開き、わが家の中にひっそりと佇んでいるかのようでした。そして、その扉はとてつもなく大きく、頑丈でありながら掴みどころがなく、永遠の深い闇へと私達を吸い込んで行くかのように思われました。

 しかしその吸い込み口は、不規則に開閉し、その大きさも、徐々に口元をすぼめるように開きつつ、奇怪な空気を私達に吹きかけたり、異様な世界を垣間見せたりしているのです。

 そのようにして、「正体不明」の案内人は、我が家を少しずつ黒い影で覆い、現実世界から隔てようとしている―そんな印象が、この6月になって更に強まりました。

 日付が6月1日に変わった午前0:30、私と母と息子とは、寝室のふすま付近で、「どうしてこんなことが起こるんだろう」と話し合っていました。

 すると、何かが部屋の隅(テレビボードの左側)に置いてある電子ピアノの方から、「ビュッ!」と激しい勢いで私の目の前をかすめるように飛びました。

 「キャーッ!」

 私は思わず悲鳴を上げました。それは、テレビボードの右隅(リビングのドア近く)の亀の水槽の後ろに落ちました。落ちたのを見ると、母の便秘予防のスティック状の粉薬でした。このスティックは、テーブルの上に置いていたのです。

 「今の、凄かった......テーブルの上に置いていたのに、ピアノの隅からねぇ―飛び方が凄かったよね」私は、母と顔を見合わせました。

 その薬は、「飛ぶのが嫌だから」と、テーブルの上のタオルの下に押し込みました。ユタカが、髪が痒いと言うので、私は台所の流しで、彼の髪を洗ってやりました。

 息子は、パソコンデスクの前で、櫛で髪をときながら、私と話をしていましたが、また何かが、彼の背後をビュッと飛び、テレビの前に置いたラジカセのすぐそばに落ちました。

 それは、つい5分前に、タオルの下に押し込んだ、やはりスティックの薬だったのです。

 もう、「飛ぶのを阻止しても無駄なんだな」という感じになっていたにも関わらず、それでもやはり、何かが飛ぶと、それを「飛ばないように」と、どこかに押し込んだり、しまいこんだりしたくなるのでした。

 それからほんの8分後のAM 0:43、息子が「もう眠たい」と、髪は半乾燥のまま、食卓のテーブルの上に顔を突っ伏していました。

 すると、突然、「ガーン!」と凄まじい音がしました。テーブルのほぼ中央に置いていた、母や私が使うコールドクリームの瓶が、急に吹っ飛び、斜め左の電子ピアノの下にぶつかって落ちた音でした。

 「ああ、びっくりした…!僕、顔をうつ伏せにする前、あの瓶があるな、と漠然と思って、しんどいから突っ伏したんだよ。その途端、目の前からあのクリームの瓶が消えて、あんな向こうにすっ飛ぶんだもの」

 実際、飛んだ距離は、やはり5.5mほどでした。

 またそれから2分ほどして、洗面所は怖いので、台所に移していた歯磨きで、私が口を洗おうとした時です。歯磨きのキャップを外し、歯ブラシに歯磨き粉を練り出していたら、それまでじっと動かなかったキャップが、急に「コトン」と、台所の赤いタイルの上に落ちました。

 AM0:48 、私が母と話しながら、リビングで就寝前の薬を飲もうとしていたら、再び背後で何かが「コーン!」と落ちる音がしました。見ると、ユタカのアトピー用の使い古したチューブが落ちていたのです。

 これは、息子の枕元の、薬入れの小箱に入れていたというのに、何とリビングのドア近くまで飛んで来たのです。

 この「アトピーの古い薬」が、異変が起きるようになって、最も長距離を飛んだことになりました。さして広い家でもありませんが、それでも息子の枕元からリビングのドアの下までは、10mはあるのです。

 ここまで、6月1日の午前0時を過ぎてから物が飛んだのは、ほぼ2分から5分おきでした。

  AM0:58、私はいつもの習慣で、寝る前のワインを出そうと、流しの下の物入れに近寄りました。すると、また何かが「コトン!」と落ちる音がします。

 リビングを見回すと、さっき飛んで来た「長距離飛行」の古いアトピーチューブが、今度は亀の水槽近くに転がっていました。このチューブは、やはり「飛ぶのが嫌だから」と、息子の枕元の小箱に元通り、しまって蓋をしておいたのです。

 「なんでこればっかり、10mも飛ぶの?」

 私はこの古いチューブが気色悪くなり、「もう薬も残ってないから」と、台所隅のゴミ箱の下の方へと押しやりました。思いっ切り押しやったのは、「もう飛んできませんように」という願いをこめたからでした。

 AM1:04、ワインを出して、コップの用意をしていたら、また床に物が落ちる音がします。振り向くと、今度はユタカのアトピーの新しいチューブが、リビングの中央に落ちていました。

 まるで、「古いのをゴミ箱に押し込んだから、今度は新しいのをどうぞ」と言わんばかりでした。息子は、AM0:50 には安定剤で毛布にくるまって、いつもの癖で、壁際を向いて寝ていました。

 私は、2週間ほど前に、管理人さんから「こういう家の中のことは、案外子供さんの悪戯ってこともあるんと違いますかね」という言葉が引っかかっていましたが、何か異変が起こるたびに、物が飛んで来る状況において、息子は関係のない位置にいるか、眠っているかなのです。

 枕元の物がリビングへと飛ぶ、というのも、息子がまず疑われそうではあります。しかし、彼が本当に物を投げていたのなら、その気配や動作は、私や母の視界に必ず入るはずです。なぜなら、息子の枕元から物が飛ぶ場合は、私はすぐさま振り返っているからです。何かを投げたのなら、彼が腕をごそごそと引っ込める仕草が目に入ったことでしょう。

 しかし、どんな場合でも、空気さえ止まったかに思われる深夜に、ただただ、「物だけが飛ぶ」のです。張り詰めたガラスのような暗闇を突き破って、激しく動くのは、誰も手に触れていない「小物」だけでした。

 新しいチューブが飛んで6分後のAM1:10、私はトイレに行きました。 息子と母が寝ている寝室に戻ると、「コトッ」と音がしました。

 見ると、ユタカのアトピー用のプラスチック製の小瓶が、私の枕元に転がっていました。それは青い蓋で、中身はチューブ薬を伸ばすローションでした。これも、きちんと蓋をした、息子の薬箱に入れてありました。

 なぜ蓋がしまったままの箱から、色々と薬が飛びだすのでしょうか。

 その後、私は布団に就きました。が、なかなか眠れません。仕方ないので、いつものようにワインを飲んで、気持ちを落ち着けるために、イヤホンでMDのクラシックを聴いていました。時刻は午前2時でした。

 もう何も起きない様子だったので、「今夜はこれ以上何もないかも」と安心していた矢先でした。突然、寝室の閉め切ったふすまの外部に、何かが投げつけられたかのように「ゴン!」と凄い音がしました。私は「また何か飛んで来たのか」と、ふすまを開けました。

 よく見ると、私の足元には、子供のアトピーのチューブが落ちていました。

 しかし、そのチューブは、ほぼ1時間前に、6分ほどの間隔で2回も飛び、気色悪いからと台所隅のゴミ箱に深く押し込んだ、例の使い古されたチューブ薬だったのです。

 「なぜ、他のゴミよりもずっと下に押し込んだ、このくしゃくしゃに折れ曲がった薬がふすまに投げつけられたんだろう―?」

 チューブやスティック状の薬が、「捨てても飛んでくる。タオルの下に押し込んでも飛び出してくる」といった、これら一連の現象の執拗さに、私は闇からの深い怨念めいたものを感じ、ぞくりとしました。

 それから10分後 (AM2:10)、連続モードにしていた私の枕元の扇風機が、スイッチが勝手に「カチリ」と止まってしまいました。タイマーも何もしていなかったのに―

 そして、その直後、例のパジャマの件が起きた、というわけです。

 私は、なぜこうした不思議な事柄が起こるのか、慄いていても仕方がないと思いました。しかし、いきなり「お祓い」や霊能者関係に片端から当たる、ということは、その効果のほども分からないため、とりあえず避けていました。そこで、ネットの百科事典として日頃から愛用している Wikipedia で調べてみました。

 「ポルターガイスト」と入力すると、「ポルターガイスト現象」という語が表示されました。

 そこには、こうした現象が欧米だけではなく、日本の江戸時代、そして20世紀末、岐阜県の富加町でも起きたことが記されていました。私は、この事典の記述により、富加町の事件や、30年間ポルターガイスト現象に苦しんだという作家、佐藤愛子さんのことを知りました。

 しかし、私が最も驚いたのは、この現象が、「思春期の少年少女が家庭にいる場合起こりやすい」と説明されてあったことでした。Wikipedia では、次のように記載されていました。

―超心理学的解釈

 ポルターガイスト現象は「通常では説明のつかない現象」ともされる。

 超心理学では超常現象として扱っている。 ポルターガイスト現象は、思春期の少年少女といった心理的に不安定な人物の周辺で起きるケースが多いとされており、その人物が無意識的に用いてしまう念力(反復性偶発性念力 recurrent spontaneous psychokinesis RSPK)によるものとする説もある。

 つまり、そういった能力を有する者が無意識的に物を動かし「ポルターガイスト現象」を発生させてしまう、とする考え方である。

 例えば富加町のポルターガイストでは、超心理学研究者の小久保秀之は「(地磁気の異常が脳に作用して)無意識的な念力現象が起こっているのではないか」との仮説をあらかじめ抱き調査用の測定器を準備した(但しその仮説は調査後に見直すことになった)―

 こうした説明を読むと、にわかに信じがたいことではありますが、我が家の状況を思い起こすと、当てはまる部分がないわけではありませんでした。

 息子は、13歳半年にも満たず、ちょうど思春期の前半であり、「ただでさえ不安定な思春期」の最中に、いじめにより「不登校」という、本人の意思では解決できない苦しいジレンマに日夜苦しんでいたからです。

 しかし、なぜそうした年頃の子の周辺で、奇怪な現象が起きるというのでしょうか。人間は皆、生きている以上は、何らかの不安はつきものです。なぜ「思春期の子供」が取り沙汰されるのでしょうか。(To be continued…)

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