2010年5月21日金曜日

第5章「異界の門」―6―壁の中の気配:part4―窓に残された手型

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 6月7日土曜日の朝から、8日の日曜日夜半までは、今までのことが全く嘘のように、何も起きませんでした。ただ、携帯やデジカメのムービーがきれいに「消去されている」ことが不思議でした。

 8日の昼間、息子は昼寝をしていました。彼が起きて来ると、私は、早速、ムービー消去の話をしました。

「ねえ、7日の夜中、スタンドが動いたのをお母さん、携帯で撮ったでしょ。それが、ゆうべ、もう一度確認したら、消えていたんだよ。5月に何かが撮影されてたデジカメの、気持ち悪いムービーも消去されてた。変だよね」

 ユタカは、「へえ~」と不思議そうな顔をしましたが、急に思い出した表情になりました。

 「そういえば、僕、さっきの昼寝の時、夢を見たんだよ」

 「どんな夢なの?」

 「あのね、男か女か分からない、中性的な人物が、携帯をしまってる整理ダンスの引き出しに近寄ったんだ。それで、そいつが『証拠になる物が残っている』って言って、タンスの前に10秒ほど立ってたけれど、それから、姿を消した。そういう夢」

 彼はそう言うと、気がついたように付け加えました。

 「あっ、じゃあ、あの夢は正夢だったんだね。霊感の強い人間の夢に、霊は現れて、話しかけてくるというらしいからね」

 「霊感」という言葉を、私が子供の口から聞くのは、その時が初めてでした。

 息子が、いつの間にそうした言葉や、「霊感の強い人間の夢に、霊は現れて、話しかけてくる」という知識を得たのか分かりませんでしたが、多分、ゲームの中に「霊感」という言葉が登場したり、ネットの「心霊特集」などを子供が好んで、私も一緒に見たことがあるので、そうした知識が印象強く残っていたのかもしれません。

 しかし、息子が自分自身を「霊感の強い人間」と既に感じるようになった理由については、私は、今考えると不思議ですが、2008年の6月においては、特に妙に思いませんでした。

 「誰もいない部屋やベランダで、気配を感じたりするのだから」と、自然に納得していたのです。

 また、私自身も、無人の場所で人の気配を感じたり、誰もいるはずのない隣室から、壁を叩く音を聞くという現象を経験するようになってからは、「霊感」との言葉に、特に抵抗を感じなくなっていました。

 私は、自らを「霊感のある人間」と自認してなどいませんでしたが、この時には、注文した佐藤愛子さんの『私の遺言』を読み始めていたために、そうした「特殊能力」に関し、共感できるようになっていたのだ、と思います。

 佐藤愛子さんは、「霊感」を「霊体質」と表現し、「人は皆、霊体質になる可能性がある」と記し、次のように分類していました。

 ―すべての人が霊体質なのであって、1.それが既に出ている人、2.一生気づかぬままに死ぬ人、3.今はそうではないが、何かの拍子に出る人、4.経験はないが知識として持っていて信じている人、などに別れているらしい。

 そして、佐藤さんは、自ら「私は51歳のその時まで、何の異変も感じず、幽霊話などバカにしていた。私は、3に該当するのだろう」とのように述べられています。

 こうした佐藤さんの体験談から、「なるほど、そんなことがあるんだな」と、何の抵抗なくその分類に納得できたのは、私や家族が、佐藤さんと同じような体験をしていたからなのでしょう。

 超常現象などに無縁であれば、私も、かつての佐藤さんと同様、「そんな非現実的な話、嘘に決まっている」と思うでしょう。

 実際、異常な体験をするまでは、本当にそう思っていたのですから。

 そして、恐らく、息子も、また多分、私も、佐藤さんのように、「3.今はそうではないが、何かの拍子に出る人」に当てはまるのではないか、と、本を読んだ時、驚きながらも、そう実感したのでした。

 父は、一旦、7日の朝に大阪に帰り、8日の晩に再び我が家に泊まりこみにきました。父が、知人のKさんと話したところ、「霊というのは、何かを媒体として現れるらしいですね。特に、家の中に心の不安定な子供がいる場合、そうした現象が起こりやすい、という話をよく聞きます」との意見だった、と話してくれました。

 しかし、こうした「霊感、霊体質、霊の出現」という印象は、この頃にはあまり無かったのです。

 むしろ、物が飛ぶ、浮く、などの非物理的な現象、との感じが強く、実際、背後に「心霊的なもの」が関わっているとの確信など、ゼロに近いと言ってもよいほどでした。

 9日の夜半、AM1:45~2:40 頃にかけて、再び怪異現象が始まりました。最初は、壁の音でした。

 その壁の音は、今までにないような、激しいものでした。

 初めは、「ドンドン、コンコン」との音でしたが、それも、もう全く、壁の中から「人」が叩いているような感覚でした。

 その音は、次には、爪の先で引っ掻くような、「ガリガリガリーッ、ガリガリッ」という大きな異様なものに激変し、寝室の壁の上から下へ、ベランダ側の右上隅から、ふすま側の左下隅へと、縦横無尽に響き渡りました。

 「ガガガ……ガリッ!ガリガリガリガリガリーッ……!」

 「うわっ!怖い……!」

 私達は、あまりの凄まじさに震え上がりました。それは、本当に「壁の中に誰かがいて、尖った指先の爪で壁を引っ掻き回っている」としか思えない音でした。

 ユタカは、壁から体を「気持ち悪い」と離して、音に驚いていましたが、急にはっとして、こう言いました。

 「今、すごく人の気配がして、ベランダから室内、そして壁の中に入って行った感じがした。最初は小さい女の子、次はかなり大きな男の人みたい」

 その後、息子は眠気が覚めてしまい、「目がかゆいから、小さいアイスバッグ持ってきて。喉乾いたから、ジュース欲しい。むかむかしてお腹痛い、胃腸薬持ってきて」と私に頼みました。私は、冷蔵庫からアイスバッグを持ってきたりと、息子の世話に追われました。

 すると、AM2:41~50にかけて、今度は小物が再び飛ぶ現象がスタートしました。

 息子の枕元に置いたアイスバッグが、私の布団や母の枕元へと、3回もポーンと飛び、タンスの上のペンがリビングへと放り出され、息子の枕元のティッシュボックスが、母の胸の上へと投げつけられたのです。

 その直後、ユタカは「小さい女の子の気配がまたする。『ごめん』って声が頭に浮かんだ。もう、気配消えちゃった」と言いました。

 すると、物が飛ぶ現象はピタリと停止してしまいました。

 私は、「その女の子の声が浮かぶって、どんな感じに聞こえるの?」と彼に訊きました。

 「う~ん……頭の中で、僕の考えじゃない、他人の声が聞こえる感じ」ユタカはこう答えました。

 私達は、父の寝ているマッサージチェアのある部屋へと布団を移動させました。

 もう気色悪いのと不安とで、みんな眠れないので、父が心配して、「どうせ寝れないんだ。皆でここで灯りつけて、笑い話でもしよう」と言ってくれたからでした。

 そうするうちに、AM3:00 過ぎた頃から、急に何か、声のようなものが室内で聞こえてきました。

 「ねえ……声が聞こえない……?」私は、母に言いました。

 「ン……ウゥ~ン……ウッ……ウゥ……」

 それは、若い女性の、細く、苦しげな呻き声でした。

 父も、「本当だ。女の声がするな」と驚いた顔をしました。その声は、何か訴えるような、泣くような、呻くような声でした。

 「ウッ……ウゥ……」

 何度も何度もその声は聞こえてきました。母も息子も「本当だ……あっ、また聞こえるね」と体をこわばらせました。

 よく聴くと、その声は、ベランダのカーテンの辺りから聞こえてくるのです。

 ユタカは、「ねえ、今、ベランダに、女の人が横たわっている気配がする……」と言いました。

 「えっ!女の人?やだ、怖い!」私は思わず、母の手を握り締めていました。

 その声は、1~2分置きに、1時間半、AM4:30過ぎまで続きました。家族全員、眠気など吹き飛び、ただただ、凍りつくような恐怖に捕われていました。

 気がつくと、外は明るく、日の光がカーテンから差し込んでいました。

 「もう5時じゃないか。カーテン、開けてしまえよ。気味悪がってても、もうどうしようもない」

 父がそう言い、カーテンを左右に大きく開けました。その時、ユタカが、「何だ、あれ?」と不意に大きな声を上げました。

 「ねえ、窓に手や足の跡があるよ!」

 私達が、ベランダの窓ガラスを見ると、結露で少し濡れた室内のガラスに、内側から、たった今つけられたかのように、細い指の手型が、指を5本とも大きく広げた形で残っていたのです。

 その手型は、窓ガラスのあちらこちらに、合計5か所、ついていました。結露で曇っているところに押し当てられたらしく、手型からは、水滴がしたたっていました。

 また、若い女性のような、細身の足型も、一か所、ガラスの下の方についていました。その足跡は、ちょうど、ガラスを背にしてつけたかのように、逆さまにつけられていたのです。(To be continued……)



 

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