2009年10月11日日曜日

第1章: 前兆―1―『人形』 の本:part2

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 息子は、たいてい、子供部屋隣の、リビングのテーブルの椅子に座って、DS をしていました。最初、本が引き抜かれて机の上に置かれた時、その前に彼が部屋にいた、ということもありませんでした。

 息子は、テーブルでゲームをしながら、テレビを観て笑っていました。私の「あの『人形』が机に置かれていた」との話にも、「何かのはずみで落ちたんでしょ」との返事でした。

 私は、『人形』の本を元に戻しました。本棚といっても、両脇に支えがあるだけで、ガラスで覆われているのではありません。その本の脇に、他の本を寄せて、絶対に倒れないようにした上、また、それらの本の上には息子のペンケースと折り畳み傘、またすぐ手前には、電動鉛筆削りを置いたのです。

 こうすれば『人形』だけが、ひとりでにであれ、偶然であれ、本棚から落ち、机の上に置かれることは、まず無い。そう確信したのでした。

 しかし、それは私の浅はかな、またちゃちな仕掛けにすぎませんでした。

 その状態にし、子供部屋は冷房し、しばらく私と息子はその部屋にいました。やがて、夕食の用意ができ、母が私たちを呼びました。まず、息子がリビングへと行きました。

 私は、『人形』の本が、絶対にひとりでに飛び出してこないよう、さっきの状態になっているのをしっかり確認してから、部屋の電気を消し、そしてリビングへと向かいました。

 テレビでは、当時の首相、小泉氏の長男で、今は映画俳優として活躍している人がトークショーに出ていました。私たちは、それを見て、笑ったり、感心したりしていました。

 その間は、例の本のことは忘れていました。

 やがて、蒸し暑くなってきたので、私は、ひとりで、隣の子供部屋に行き、電気をつけずに、ただ、エアコンがまだ動いているかを確認しに行きました。

 エアコンは動いていました。そして、私は、ふと、例の本のことを思い出し、そっと学習机の上に視線をやりました。その瞬間―

 「キャーッ!」

 自分でも驚くような悲鳴を、私は上げていました。

 あんなに「絶対動かないようにと固定していた」、『人形』の本が、やはりそれだけ抜き取られて、表紙を上にして、学習机の上に、斜めに無造作に置かれていたのです。

 その本の上に置いていたペンケースや折り畳み傘、またその本の左右を固めていた他の文庫本は、1ミリも動いてはいない状態でした。 『人形』の本の前には、重たい鉛筆削りがどっしりと構えていたのに、それも1ミリも位置は変わっていませんでした。

 ただ、『人形』の本だけが、まるで透明な手を持つ「誰か」によって抜き取られ、バサッと表紙を上にして、置かれていたのでした。(to be continued...)

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