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その時の私は、「本が動く」ということに畏怖感を抱きこそすれ、それが「現実に起こりうるはずのない現象である」との認識が薄れていたように思います。
そこで「本が動くのは怖い。何とかして動かないようにしなくては」と、あれこれ考えました。
現実には、「本」というものは勝手に動くはずはなく、物理的に考えてもあり得ない、これが真実であり、日常なのです。
ですから、「本が勝手に動かない方法を考える」ことは、実に非現実的なのですが、私はただただ「これ以上、本が飛び出すのは怖い」気持ちから、そうならない手段を探ることで頭がいっぱいでした。
結局、その『人形』の本は、もう子供部屋に置くのはやめて、リビングのテレビボードの書棚に入れることにしました。
手段は決まったものの、私はその本を手に取ることが怖く、また気味が悪くてたまりませんでした。そこで、当時12歳の息子の豊(ユタカ)に頼みました。
「ね、この本触るの嫌だから、書棚にしまってくれる?」
「え~平気だよ。お母さんがやれば?」
「でも、どうしても怖いよ。ねっ、お願い、お願い」
ユタカは、「仕方ないなあ」と言って、その本を、こともなげに掴むと、書棚に突っ込みました。
場所は、私が指定しました。
なるべく、分厚い本の間がいい、そう思って、『トミカ自動車図鑑』と『ハリー・ポッターと賢者の石』の間に押し込んでもらったのです。
12歳の中1にもなって、『トミカ自動車図鑑』というのも幼いのですが、私が、息子が5歳まで読んでいた本を、まだ捨てられなかったのです。
私は、自分でも変なことを言っていることは承知で、それでも安心して、こう言いました。
「ねえ、あれだけ分厚い本に挟まれてるんだもん、もう絶対にあの本、飛び出せないよね。手前にガラス扉もきちんと閉めてるんだし」
「うん。ね、お母さん、この状態で、この本、デジカメでちょっと撮ってみようよ。だって、この本、初版が2000年じゃん。今、2007年だよ。ずっとアマゾンの倉庫に置かれていたんだ。重刷もされないでさ。有名で人気がある本なのに、変だよね」
確かに、山岸さんのその『人形』の本は、「ホラーマンガのランキングで毎年1位、2位を争う」ほどの人気でした。大人の男性でさえ、「夜読んだら、運転もできない、夜道が怖い」というほど、その恐怖感は現実味を帯びていました。
「じゃ、心霊写真とか......写るっていうこと?」
「うん。きっとさ、倉庫で7年間放置されている間に、この本を好きな霊が、本に憑りついたのかもしれない。または、いわくつきの本で、オークションに出されていたのかも―」
まだ12歳とはいえ、自我の確立が成されてきた少年の言う言葉には、大人もハッとするほど、新鮮な発見があるものです。
「心霊写真」そのものさえ、普段から疑ってかかっていた私であったのです。しかし、ここまで目の前で、異様な出来事が起こると、不思議と「心霊写真、写るかも知れない」と素直に納得してしまうのでしょう。
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